それじゃあ面白くない、個性を前面に出そう――第42回

千人回峰(対談連載)

2010/03/15 00:00

岡田清

岡田清

ディーアイディー 代表取締役

教えられる仕事ではない


 奥田 釣りの初心者とか門外漢には、ダイワとシマノのリールの違いが、ほとんどわからないと思うんですけど…。

 岡田 似たようなデザインになっているかもしれませんね。それぞれの個性が出せていないということでしょう。リールだけじゃなくて、車なんかもそうです。後ろから見るとどこのメーカーの車かまったくわからないこともあります。ブランディングによる差異化が足りないんでしょうね。

 奥田 リール以外ではどんな製品のデザインをされているのでしょうか。

 岡田 大きく広げているわけではないです。基本は1業種1社ですし。

 奥田 1業種1社にこだわられるのは何かあるんでしょうか。

 岡田 こだわるっていうか、それはやっぱり信義の問題です。

 奥田 今、手がけておられる業種の数はどのくらいですか。

 岡田 5~6業種ということですか。スポットで入ってくる仕事もありますけれど。人数も少ないですし、横に広げようという気はあまりないです。売り込みにはいっさい行かないですし、やったこともないです。営業もいませんから。人のつながりで仕事がくるというケースが多いですね。なかにはホームページを見てということもありますけど。

 奥田 仕事を発注してくれている会社からはどんな評価をされているのでしょうか。

 岡田 いい仕事をやってくれているという評価だと思います。

 奥田 いい仕事というのはどんな要素になるんでしょうか。

 岡田 売れるということです。最終的にユーザーに支持される商品ということですね。野球で言えば、常に満塁ホームランとはいかないまでも…。

 奥田 イチロークラスの成績はということですか。

 岡田 イチローというのはちょっと厳しいですね(笑)。でも、評価はいいと思います。だから、継続して仕事をいただけるのだと思っています。

 よく社内のデザイナーたちに言っているんですけど、依頼されたことだけをやっているのではなく、こちらからの提案もするんだと、いろんなアイデアを提供していくんですね、そういうなかで信頼感みたいなものが深まっていくのだと思います。

 奥田 なかなか教えにくいことですね。

 岡田 教えられる性質の仕事ではないです。僕ら経営陣ができることは働ける環境や設備を整えるということです。手取り足取り教え込んでいくようなものではなく、自分でできるセンスのある人でなければこなせないと思います。だから、うちのデザイナーはみんなできる人ばかりですよ。一人でやろうと思えばみんなできると思います。ただ、今はお客さんを取るのがなかなか難しいですからね。
 

人が入れ替わってきたから40年続いた


 奥田 社員さんは今、何人おられるのですか。

 岡田 1人が総務・経理担当で、あと僕をのぞく20人のうち、13人がプロダクトデザイナーで、7人がグラフィックデザイナーです。

 奥田 20人のデザイナー集団というとかなり大きいと思いますし、それぞれ強い個性をお持ちだと思いますが、弟子を育てられようと思われたんでしょうか。

 岡田 弟子を育てるとか、そういう気はあまりないです。ただ、僕らの頃には独立した人もかなりいましたから、負けん気みたいなものはありましたね。単純ですけれど、人数が多くて、売り上げも多い会社にしようという気はありました。

 それと、一人か二人でやっていると絶対に40年間も続きません。いろんな人が入れ替わって新陳代謝をしてこそ、次々と新しいアイデアを出せるのであって、二、三人でずっとやっているとアイデアが枯れちゃいますね。きっと相手の会社からも物足りないと思われてしまいます。

 奥田 そういうことに、いつ頃気づいたのですか。

 岡田 独立して2~3年の頃です。今年で創業から40年になるわけですけど、最初の10年間は自分で全部やっていました。経理も何もかもね。次の10年はプレイングマネージャーで、あとの20年は何もやってませんね。要するに、みんながやりやすい環境を整えたりと、仕事はそういうことです。

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