かつてデザイナーはノータッチだった
奥田 最初にリールのデザインを手がけられた時は、どんな方針だったんでしょう。
岡田 当時は、AbuにしてもPENNにしても、国内のオリムピックにしても、デザイナーは、たぶん、開発に関わっていなかったと思います。エンジニアが機能を追求した形が製品になっていて、デザイナーはノータッチだったと思います。
奥田 その頃はそうだったんですね。
岡田 初めてインダストリアルデザイナーがリールのデザインを手がけたのが、オリムピックの投げ釣り専用リール「93シリーズ」だったではないでしょうか。
僕がやったのはそういうエンジニア視点のアプローチではなく、外観を大胆に変えてやろうと。中味(リールの機構)は変わらないんだから、まあ、表面のスタイリストですね。それで、アメリカに持っていったら、こんなのは絶対に売れないと言われました。弁当箱みたいで。営業部門の人も、みんな反対しましたよ。ところが、実際に売ってみたみたら、ものすごい人気がでましてね。
奥田 具体的にはどんなデザインだったんでしょう。
岡田 僕のその時の発想は車のイメージでした。リンカーンとかキャデラックとか、広くて、薄くて、低くて、シンプルな形状の、あのフォルムをイメージして、できるだけシンプルなデザインにしたんです。で、ポイントになるところは、たとえばネームプレートとかはコストをかけてデラックスにしてね。これは、ずいぶんヒットしましたよ。
奥田 そのリール、ぜひ見たいですね。
岡田 残念ながら、もうありません。そういうものを時系列に保存しておけばよかったんですけど…。
奥田 やはりデザインが、売れる大きな要素になるということですね。
岡田 それはあると思います。とはいっても、基本の機能がしっかりしていなければダメですけど。ただ、あの当時は、新しい機能というのは何もないんですよ。リールの基本的な機能だけです、よその製品と大差はない。でも、そういうなかでも、他社との差異化や目新しさというような、売れる要素を考えなくちゃいけないわけです。初期の頃は外観で売っていく時代でしたね。近年は外観だけで売れる時代ではないですけれど。
奥田 もともとはエンジニアの人が製品作りまでやっておられたわけですね。そこに岡田さんがデザイナーとして入っていかれて、最初の頃は社内に反発のようなものはなかったのでしょうか。
岡田 エンジニアとはしょっちゅう喧嘩してました。向こうは、「なんでこんな無駄なことをやって」と言うわけですよ、デザイン的なことに対して。それで議論になって、「売るための新しい機能なんて何もないじゃないか!」てな具合で…。
奥田 ありがちな話ですね。
岡田 僕なんかは、金沢の伝統工芸の影響で、コスメティックデザインもある程度わかっているし関心もあるから、ワンポイントでそういうのも付けて売り出すわけですよ。それがヒットするんだけど、エンジニアは面白くない。自分たちの技術で売れているわけじゃないから。だからいつも喧嘩でした。ただ、営業は「岡田さんの言う通りだ」って援護してくれました。営業とは仲がいいんですけど。技術とはしょっちゅう喧嘩でした。
奥田 そういうなかで、お互いが切磋琢磨していくということもあるんでしょうね。
岡田 ダイワの社内で、当時のそういったやりとりが今でも生かされているんだと思います。
神様と言われる時代もあった
奥田 岡田さんは、ヒットメーカーだったわけですね。
岡田 自慢になりますけど、「リールのデザインは岡田さんのやる通りやれば間違いない」と言われた時代がありました。
奥田 その道の神様ですね。この会社を創業されて何年目くらいのことですか。
岡田 ライバル大手メーカーのシマノが出てきた頃です。
奥田 というと?
岡田 30年くらい前でしょうか。シマノやリョービにも学生時代の後輩がいて、彼らもよく言ってましたよ。「市場でも会社でも言われるけど、デザインはダイワの岡田さんの真似してればいいんだ」って。お世辞半分で、本当はちょっと違うんだろうけど(笑)。
当時の僕らの合言葉が「(トップメーカーの)オリムピックに追いつけ、追い越せ」でした。それに向けて邁進していた頃です。
奥田 すごいことですよね。この業界で神様になられて(笑)。
岡田 神様なんて、自分で言っちゃおかしいですね。
奥田 伝説の人ですね。駆け上がってこられた間に心がけたこととか、ものづくりへの思いなどはいかがだったんでしょう。
岡田 独自の、独特のデザイン、個性ですね、それを前面に押し出してやろうと思っていました。
奥田 それは競合に勝つためですか。
岡田 そうです。競合に勝つ、そのためです。ダイワとシマノとリョービ、その他のメーカーもありましたが、そのなかでトップに立つということです。
もちろん、そのためにはデザインだけではなく、技術や営業部門とのきめ細かな連携が必須ですが…。
奥田 うちの会社の釣り好きな社員に聞くと、ダイワの商品は市場ではちょっと高額という評価もあるようですが…。
岡田 値段に関しては僕はよく言っているんですが、ただ安くするだけではダメだと。自信があるなら、ちょっと高いほうがいいじゃないかって。
その頃アメリカでもナンバー1と言われていたけれど、値段のことはあまり言われなかったです。つまり、いいものだったら、ある程度は高価格でも通用するということです。