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『初音ミク』の生みの親が語る開発秘話――第41回(上)

伊藤 博之

伊藤 博之

クリプトン・フューチャー・メディア 代表取締役

人間の歌声もバーチャル・インスツルメントで再現できたら

 奥田 それで、いよいよ人間の声ですか。

 伊藤 そうです。ヤマハがVOCALOID(ボーカロイド)というバーチャルな歌声を合成する技術を開発していたんですね。それでわれわれもプロジェクトに参加させてもらったわけです。VOCALOIDというのはOSという感じで、そこにアプリケーションを載せて動かすわけです。そのアプリケーションをわれわれがつくるということです。

 奥田 これも先ほどのピアノのように生の声を録音していくんでしょうか。

 伊藤 そうです。人間の声の発音のパターンを延々と録音、編集して、VOCALOIDで合成することによって音声のデータをつくるわけです。だから、最初に録音する人の声によってさまざまなものができます。かわいらしい女の子の声だったら、そういう声がVOCALOIDによって再生されるわけです。

 奥田 『初音ミク』がそのパターンですね。

 伊藤 そうです。

 奥田 このタイトルはどこから考えられたんでしょう。

 伊藤 『初音ミク』というのは未来で、「未来からきた初めての音」ということです。

 奥田 ああ、なるほど。

 伊藤 『初音ミク』の場合は、人格みたいなものをもたせたのがミソだったですね。

 奥田 というと?

 伊藤 ギターやピアノだったら、「バーチャルリアルギター」とか「バーチャルグランドピアノ」とか、そんな商品名で出します。「ボーカル」の場合はどういうネーミングで出すのか、さんざん議論したんです。最初はパッケージにマイクでも書いて、タイトルは「バーチャルソング なんとか君」とか「シンガー君」とか、そんな風に考えていました。でも、どうもしっくりこない。いっそのこと、中に人がいることにしようということになったんです。お客様の目線からみると、それが一番わかりやすい、と。中に人がいて歌ってくれるんだと。そうなると、パッケージもマイクだとそぐわない、アニメとかの絵がいいんじゃないかとなった。

 『初音ミク』は最初からああいうキャラクターのコンセプトがあったわけではなく、つくっていくなかで、お客様に対するわかりやすさと宣伝しやすさも含めて検討した結果、行き着いたわけです。

 奥田 そこに行き着くまでにはどのくらいの期間がかかりました?

 伊藤 2004年の11月にVOCALOIDで『MEIKO』というのを出しました。バーチャル・インスツルメントというのはニッチな市場で、業界では1000本売れれば、「よかった、よかった」というところなんですが、『MEIKO』は初年度3000本売れたんです。『MEIKO』を出すときにキャラクターにしようという発想が生まれたわけですけど、これでコンセプトは間違っていないと確認できたんです。

 奥田 これが2007年の『初音ミク』につながっていくわけだ。

 伊藤 途中、2006年に『KAITO』というのを出しました。これは男の子でしたが、さっぱり売れなかった。500本ほどでしたか。やっぱり売れるのは女の子だとわかったんですね。そうこうしているうちにVOCALOID2がヤマハから出ることになって、こちらも何か投入しようということになりました。それが『初音ミク』なんです。

(後編に続く)

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Profile

伊藤 博之

(いとう ひろゆき)  1965年、北海道生まれ。北海学園大学経済学部卒業。北海道大学に職員として在籍後、1995年、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社を札幌市に設立。効果音やBGM、携帯電話の着信メロディなど、音に特化した事業を展開。2007年音声合成ソフト『初音ミク』を発売、大ヒット商品となる。北海道情報大学客員教授。