海外と女性にフォーカスする――第32回

千人回峰(対談連載)

2009/01/19 00:00

葉田順治

葉田順治

エレコム 取締役社長

上場することの意義

 奥田 上場されてから、少し地味になられましたね。やはり、上場するといろいろ変わりますか。

 葉田 よかった点をいえば、まず、入社を希望する学生の質が非常に高くなったことです。そして、社員が愛社精神というか会社へのプライドを持てるようになったことは大きいですね。

 それに、上場すると外部からも経営への厳しさが求められるため、儲かっているからといって気を緩めることはできません。それだけの緊張感があるわけです。いわばそういう制約があるため、世界で一番になるという人生の目標に専心できるといえるでしょう。私の場合、創業者利益を得ることに執着はありませんし、むしろ慎ましく生きたいと思っていますから、それでいいのだと思います。

 奥田 エレコムの上場は2006年11月ですが、それ以前にも上場しようとしたことがありましたね。

 葉田 セプテンバー・イレブンの頃(2001年)ですね。このときは、上場しようと思えばできたのですが、新しいビジネスモデルが確立していなかったため見送ったという経緯があります。

 奥田 以前のビジネスモデルとこれからのビジネスモデルの違いはどこにあるのですか。

 葉田 前のビジネスモデルは、PCアクセサリとIOデバイスに領域をしぼり、選択と集中を繰り返すというものです。しかし、それだけではどうしても縮小均衡に陥ってしまう。そこで、「新しい製品、新しい市場、新しいM&A」を軸に、再成長のシナリオを描いたのです。これが新しいビジネスモデルです。

 そして、2年ほど前にクレド(経営理念と行動指針)をつくりました。つくりあげるまで2年間ほどかかりましたが、「自分が何をやりたいのか」ということをフォーカスすることに苦労しましたね。

 奥田 クレドの中にある「成長し続ける」「挑み続ける」という言葉は、たしかに葉田さんらしいです。これによって、会社の芯が一本通るわけですね。

M&Aでは「エレコム魂」を注入すべし

 奥田 再成長のシナリオについて、少し噛み砕いてお話しいただけますか。

 葉田 まず、「新しい製品」については、先ほども申しましたように、徹底的に日本のアイデンティティにこだわった「ジャパン・クール」を追求し、基本的に世界標準とするということです。その代表的な製品が「エッグ・マウス」です。欧米でも中近東でも、中国、韓国、東南アジアでも絶賛されていますし、売り上げも伸びています。

 ここ数年、エレコム製品は品質オリエンテッドになっていますが、それは世界に通用させるためです。つまり、もっと快適に使いこなせて、繊細なジャパネスクを感じさせる製品を一からつくる。そして、これまでエレコムは内製にこだわってきましたが、今後は外部とのコラボレーションも積極的に行ない、欧米の列強に伍していこうと考えています。

 そして「新しい市場」ということでフォーカスしているのは、海外と女性です。アメリカとオセアニア以外の流通チャネルはすでに整備されており、為替変動に左右されない仕組みも構築しつつあります。女性市場ということでは、たとえば女性専用マウスなど、他社が手がけていないもので、なおかつ世界に通用するものを開発していくということですね。

 奥田 最後に挙げられた「新しいM&A」はどうでしょう。

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