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「豊かさ」「ゆとり」「やさしさ」を排し、「うれしい」を求める――第30回

千人回峰(対談連載)

2008/11/25 00:00

鳴戸道郎

富士通 顧問、トヨタIT開発センター 代表取締役会長 鳴戸道郎

会社の人間関係は捨ててもいい!?

 奥田 それははじめて聞きました。私も経営の参考にしたいと思いますが、ほかに何か経営の極意はありませんか(笑)。

 鳴戸 組織において、仕事を優先させるか人間関係を優先させるかというのは永遠の課題です。これは経営にも通じることだと思いますが、私は、自分がしたい仕事をするためには人間関係を悪化させることも意に介しませんでしたので、仲のいい人というのはほとんどいません。ただ、今思えば、それでいいのかという気持ちもあります。

 奥田 それで、悔恨の情はありませんか。

 鳴戸 それはない。人生、大成功です(笑)。会社の中では人間関係にはさほど意味はありません。会社は利害関係で動くものだからです。もちろん、心の通じ合う友達は別に必要ですが、会社では利害関係がなくなったら人間関係もなくなるものです。仕事は自分の記憶に残ります。だから後悔はありません。

 ただ、仕事を進めるうえで最低限の生活技術は必要です。つまり、四面楚歌の状況になっても、相談できる誰かがいるということが重要。私の場合、本当に困ったときには元社長の岡田(完二郎)さんのお墓に参って考えたり、後に副会長になった半導体事業部長の安福眞民さんに相談しました。彼は変わり者扱いされていましたが、非常に信頼できる人物でした。そのやりとりは次作の小説に書きましたが、役員全員に反対されたアムダール社の買収は、この安福さんの協力なしにはうまくいかなかっただろうと思います。

 奥田 しかし、よく役員全員の反対を押し切って、実行に移せましたね。

 鳴戸 相手がどんなに偉い人でも、私は人の言うことを聞きません(笑)。そういう意味では、自分は企業にいましたがサラリーマンではなかったと思います。だから、いまでもサラリーマンの友達は少ないですよ。つき合っているのは、蕎麦屋の親父とか魚屋とか大工さんなどですから。

 奥田 今日はいろいろと興味深いお話、ありがとうございました。経営者としても参考になりました。明日から社員に対して、ちょっと厳しく接しようかと思います(笑)。

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Profile

鳴戸道郎

(なると みちお)  1935年3月静岡県生まれ。1958年東京大学法学部卒業。1962年富士通信機製造株式会社(現・富士通株式会社)入社。1985年同社取締役就任。1994年ICL plc 会長、富士通株式会社専務取締役。1998年同社副会長。2000年株式会社富士通総研会長。2001年6月には、名誉大英勲章を受章。現在、株式会社トヨタIT開発センター代表取締役会長、富士通株式会社顧問、NPO法人産業技術活用センター理事長などを務める。