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「豊かさ」「ゆとり」「やさしさ」を排し、「うれしい」を求める――第30回

千人回峰(対談連載)

2008/11/25 00:00

鳴戸道郎

富士通 顧問、トヨタIT開発センター 代表取締役会長 鳴戸道郎

トヨタには嫌いな言葉がない

 奥田 なるほど。現在は、トヨタをメインにして仕事をされていますが、鳴戸さんはトヨタイズムをどう受け止めていますか。

 鳴戸 トヨタイズムは全世界に通じますね。そして、私はまだ7年しか籍を置いていませんけれど、非常にトヨタが好きです。それは、自分が嫌いな言葉がトヨタにはないからです。

 奥田 嫌いな言葉……、ですか。

 鳴戸 私は、「豊かさ」「ゆとり」「やさしさ」という三つの言葉が好きになれません。なぜなら、豊かさを求めることは堕落の始まりだからです。ゆとりイコール怠惰です。やさしさは癒しであり、敗北者の言葉です。トヨタにはこの三つの要素はありません。つまり、豊かでない会社、ゆとりのない会社、やさしさのない会社なんですね。

 奥田 その対極にあるのはなんでしょう。

 鳴戸 「根性」と「努力」ですよ。トヨタでは努力の上に、また努力がある。たとえば、10人で回していたラインを9人で回してみる。「できた!」と言って拍手です。そうしたらもう1人抜いて8人でやってみる。今度も「やればできるじゃないか!」と拍手です。こういうトヨタ式でやれば、どこの企業でもすごく儲かりますよ。

 奥田 しかし、豊かさもゆとりもやさしさがなかったら、社員が居つかなくなってしまうのではないですか。

 鳴戸 いや、トヨタの社員は「うれしい」のです。トヨタでは「うれしい」という言葉が多用されます。たとえば「たくさん働けてうれしい」とか、技術的な議論の中でも「うれしい(ワクワクするような)ものがない」といった表現です。そして彼らは、自社が2兆数千億円の利益を上げるトップカンパニーであるという話題を嫌います。目立ったり、自慢することは理念に反するわけですね。儲かって当たり前という感覚です。

 奥田 まさにトヨタイズムが浸透しているというわけですね。では、他社に目を転じてパナソニックの改革はどうご覧になりますか。

 鳴戸 「中村改革」の評価はさまざまですが、これによって変わったことは間違いありません。いずれ有機ELに取って代わられることがわかっているプラズマテレビになぜ社運を賭けたかというと、中村会長が大坪社長にムチを入れて、みんなを走らせるためと見ることができるでしょう。大坪さんが走れば、周りの人たちもいっせいに走る。横の様子をうかがいながら走っている会社は、たちまち業績が急降下します。ですから、その狙いは成功したと思いますね。

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