「プロ」にこだわり抜いて――第27回

千人回峰(対談連載)

2008/08/25 00:00

鈴木勝喜

鈴木勝喜

プロシップ 代表取締役会長

 奥田 当時、そのパッケージはどのくらいの値段だったのですか。

 鈴木 実は値段がわからなかったんです(笑)。ただ、MSA(マネジメント・サイエンス・アメリカ)のジョン・イムレー氏を、アシストのビル・トッテン社長から紹介してもらって話を聞き、事前に売り方の研究はしていました。

 大型汎用機を持つような金払いのよい企業、つまり上流から攻めるのが妥当だろうと考えていました。このソフトの第1号ユーザーはプラントの日揮ですが、「いくらにしましょうか」「100万円くらいかな」といったやりとりで、結局150万円で成約したことを覚えています。

 奥田 売る立場では、プログラムと会計の両方を知らなければいけませんね。

 鈴木 そうですね。「FASPAC-I」の第2号ユーザーはオリンパス光学、第3号は日本化薬だったのですが、日本化薬の方の名刺をいただいたら、3人のうち2人が公認会計士の肩書をもっておられるのには参りました(笑)。

 数年前、国際会計基準が大企業に本格導入された頃、NHKにプレゼンテーションを行ったことがあります。そのときも、NHKには会計コンサルタントが十数名もおられることを知って驚きました。そこでは、プログラムの内容よりも国際会計基準のなかでの固定資産の位置づけは今後どうなるのか、といった議論に重きが置かれていたのです。ただ単にプログラムの説明をするだけでは認めてもらえないということを、痛感しましたね。

差別化の最大の武器は専門性

 奥田 ところで、御社の経営方針というか、ビジネスを進めていく上でいちばん大切にしていることはどんなことですか。

 鈴木 非常にシンプルですが、“specialty for customer”というのが、当社の基本戦略であり基本理念になっています。お客様の期待に応えるには専門力が必要で、他社にない差別化商品がなければ評価していただけません。固定資産のパッケージソフト第1号の会社といっても、いまは会計や固定資産のソフトはたくさん出ています。そこで認められるには、他社にない機能やサービスを提供する必要があるわけですね。

 私は社員全員に対して、この理念を実現できる設計・サービス・コンサルティングができるだけのスペシャリティを要求します。そして、スペシャリティはアイデンティティだといつも話しています。これが当社の最も大きな柱です。

 アメリカ滞在時に痛感したことは、人は所属企業によって評価されるのではなく、アイデンティティによって評価されるということでした。つまり「私はミヤノに勤めている」ではなく「私は工作機械のスーパーエンジニアだ」と表現することによって、初めて自分が何者かがわかってもらえる。ですから、社員には一人ひとりアイデンティティをもたせるようにしています。もっとも「自称スーパーSE」も少なくありませんが(笑)。

 奥田 2005年3月にジャスダック上場を果たし、翌年4月には社長職を川久保真由美さんに譲られましたが、会長としてどのような役割を果たしたいと考えておられますか。

 鈴木 私もまだまだ気力・体力ともにもっているつもりですが、株式公開時の高成長・高収益路線を早いうちに若い人に引き継いだほうがいいだろうということで、上場後1年で体制を大きく変更しました。社長の川久保は40代前半、30代の役員も2人います。

 私の役割としては、彼らより経験があるわけですから、折々にアドバイスしていくということと、大きな戦略については必ず関与して進めていくということですね。それから、3年前に中国の大連に関係会社を設立して、中国市場を見据えた国際化を進めようとしています。パッケージノウハウをベースにしたシステムソリューションの展開を図りつつあります。

[次のページ]

前へ

次へ