世界を変える、壮大な夢に挑戦――第18回

千人回峰(対談連載)

2008/02/25 00:00

原丈人

原丈人

XVD Corporation チェアマン

 原 いろいろありますが、例を挙げれば、バングラデシュでDEFTA途上国計画(DDH)と名付けたプロジェクトを動かしています。バングラデシュは世界でも最貧国の一つに数えられます。貧しい理由は、国民の半数以上が文字の読み書きができないことにある。その結果、1日当たり平均100円といった低い所得しかありません。そこで、バングラデシュの貧困問題を解決するには教育が一番重要だと思いました。パソコンの普及はもちろん、通信インフラも整っていません。教師の数が絶対的に不足しているなかで、その状態を1日でも早く抜け出すには、遠隔教育を普及させることがポイントだと考え、PUCの技術を活用することにしたんです。

 私が経営しているXVDテクノロジーホールディングという企業は、XVDという、ハイビジョン画像のリアルタイム圧縮技術を持っていて、これを使えば、DVD相当の高画質な映像を現在のナローバンド程度の通信インフラで送れるようになります。全土に光ファイバー網を構築するには膨大なコストと時間がかかるけれど、そんな投資をせずに、高精細な動画が送れますので、途上国にはもってこいの技術です。しかも、世界で一番コンパクトで唯一スケーラブルなリアルタイムコーデックなのでテレプレゼンス、遠隔教育、遠隔医療といった分野のアプリケーションがMPEGやH.264と比べて安くて、電力消費が少なく、フレキシブルに作り上げることができます。

 2006年2月にはNHKから最優秀技術賞をもらい同年春からは、NHK番組の取材にも使われ始めました。民放も、ニュースやスポーツの取材に使っています。XVDは、フルHDの動画を1メガ以下でリアルタイムに圧縮できるうえに、何かの都合で回線の状態が悪くなって500k以下になっても画像の破綻はありません。昔、ピクチャーテル(のちにポリコムに買収される)やポリコムといったテレビ+音声会議システムのベンチャーを創業期から大株主として立ち上げてきましたが、大会社となった今はさらなる技術開発力はまったくないといえます。歴史は繰り返すといったところでしょうね。

 これからは主役の交代が起こり、XVDの次代になるでしょう。XVDはすでにNHK、NBC、ABCといった放送局のほか、カリフォルニア大学や早稲田大学などが遠隔教育分野に使い始めています。

 話を戻しますが、当社DEFTAの発展途上国事業部門は、バングラデシュにある世界最大のNGO(非政府組織)であるBRACと合弁会社・ブラックネット社を起こしました。BRACは、バングラデシュでも教育や医療に長年携わっており、すでに数万の学校を運営し現地で何が必要かをよく知っています。それに会社は何のためにあるのかという理念のところがDEFTAと一致しているので、合弁事業を立ち上げたのです。

PUCの実用化には日本企業を期待

 奥田 最後に、日本の可能性はどう見ておられますか。

 原 日本はまだアメリカほど時価総額至上主義に毒されていませんし、長期の研究開発投資に意欲的な企業も多い。改善、改良の意気込みも衰えていないので、大きな可能性を秘めていると思います。

 PUCのコア・テクノロジーの開発そのものは、日本を含む世界中の天才の方々にやってもらいます。核になる開発会社は、小さいほうが斬新な発想を実現できる場合が多く、15人くらいが望ましいサイズといえるでしょう。

 このようにして人種国籍の異なる人たちに次世代のポスト・コンピュータ分野のコア技術を開発する会社を日本国の法人として作ってもらいます。創業者たちはそれぞれの国で起業してもらえばよく、何も日本に住む必要はありません。ただし、世界のどの国に開発の本社を作ろうと、実用化に向けた過程で日本に拠点を置かなければならない流れとなります。このあたりの様子は「21世紀の国富論」(平凡社刊)に詳しく記しました。

 こうして世界のどの国で新しい技術が生まれたとしても日本で実用化の花が咲き、わが国の雇用を活性化し、富を作り出します。この流れを加速していくために税制、産業構造を変えていく必要があります。

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Profile

原丈人

(はら じょうじ)  1952年(昭和27)大阪生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、中央アメリカの考古学研究に従事する。考古学資金づくりのためにスタンフォード大学経営学大学院へ入学、国連フェローを経て、同大学工学部大学院修了(工学修士)。在学中に光ファイバー事業を起業して成功。  84年デフタ・パートナーズを創業、主にインターネット時代の情報通信技術分野でベンチャー企業への出資、育成と経営に携わり、90年代にソフトウェア産業でマイクロソフトと覇を競ったボーランド、ピクチャーテル、SCO、ユニファイ、トレイデックスなど十数社を、会長、社外取締役として成功に導いた。  米大手VCのアクセル・パートナーズジェネラルパートナーズも兼務し90年代にかけてのシリコンバレーを代表するベンチャーキャピタリストの一人となった。その後、欧米を中心にオープラス・セミコンダクター(05年インテルと合併)や、XVDテクノロジーの会長兼CEO、フォーティネット社外取締役として、これからのブロードバンド・インターネット時代に対応したポスト・コンピュータ分野(PUC)での事業経営を行う実業家として活動する。  地元サンフランシスコでは、日米講和条約50周年記念式典ガラ共同議長、サンフランシスコ・オペラ、サンフランシスコ動物園、サンフランシスコ大学、ジャパンソサエティーなどの理事を務めた。また03年に共和党全国委員会からビジネス・リーダーシップ・アウォードを授与、同年、共和党ビジネス・アドバイザリー・カウンシル名誉共同議長に就任。さらに、共和党ゴールド・メダルにノミネートされるが辞退。  一方、日本政府の財務省参与、首相諮問機関の政府税制調査会特別委員、産業構造審議会などの政府委員などを務め、税率を減らしながら税収を増やすことによってわが国の財政規律を目指す。  また、自らが開発した技術を使って発展途上国の情報インフラを整備し、識字率、医療衛生状態の改善に関心を持ちこれを実際に行うために05年、バングラデシュに現地のNGOのBRACと、合弁会社のブラックネット社を設立した。先端技術を使うことによって低コストで効率よく事業を起こし、その収益を持って途上国の支援に当てるビジネスモデルは、「民間によるODA補完の仕組み」として、世界銀行の目にとまり、08年の報告書に将来の有効な支援モデルとして盛り込まれた。  同時に国連経済社会理事会常任代表部IIMSAM特命全権大使や国際連合ONG WAFUNIF代表大使(後発発展途上国担当)を務め、スピルリナ(世界一たんぱく質濃度の高い食物)を使った飢餓対策を、アフリカにおいて推し進めることを目標に、「国連旗の元の民間による途上国支援」を実現することを日本発で行うなど、世界の途上国にとって日本がなくてはならない国となるための活動を行う。 著書に『21世紀の国富論』(平凡社)がある。