世界を変える、壮大な夢に挑戦――第18回

千人回峰(対談連載)

2008/02/25 00:00

原丈人

原丈人

XVD Corporation チェアマン

PUCのコアテクロジー持つ企業の発見を経て、後は育成

 奥田 原さん自身は、本来のベンチャーキャピタリストを目指しておられる、と。

 原 企業機密の横流しをしたり、金さえもうかればよいというようなシリコンバレーのベンチャーキャピタルとは一線を画し、基幹産業を作り出すことのできる可能性を持った技術を発掘してきました。2000年以降は、ポストコンピュータ時代を生み出すPUCのコアテクノロジーを持っていると思える個人、企業のみに投資しています。斬新な発想を持っているのは、科学者や変わり者の技術者に多いのです。ですから、私の仕事は彼らを見つけ出し、科学者や技術者が研究開発を担当し、私は経営を担当するという分業が多いのです。

 奥田 いまの発言に出てきた「PUC」について、簡単に説明してください。

 原  PUCというのは私がつけた名称で、新しい技術体系ともいえます。「ペーパシブ・ユビキタス・コミュニケーション」の略で、使っていることを感じさせなくて(ペーパシブ)、どこにでも偏在する(ユビキタス)コミュニケーションという意味です。つまり、元々は計算機だったパソコンは、計算機中心主義の発想の下に設計されていて、計算のために使われるのならこれほど便利なものはないのですが、コミュニケーションツールとして使うのには無理があります。

 人々がインターネットを利用するようになった90年代半ばを過ぎ、もともと想定されていなかったコミュニケーション機能を求めてパソコンを使うようになっても、基本的に計算機中心主義の発想を変えることができなかったので、パソコンは使いにくいのです。これから先、インターネットを通じたコミュニケーションの機能を最適化できるような設計思想が必要となってきます。これからはPUCで、コミュニケーション機能中心主義に基づいた非常に使いやすいITのソフトとハード製品が次々と現れてきます。このようにして、2015年くらいからパソコンは会社、学校、役所などからも姿を消していきます。

 奥田 PUC時代のコア技術として、(1)次世代通信デジタル信号処理プロセッサ(cDSP)、(2)組み込み型ソフトウェア(EmS)、(3)ネットワーク・セキュリティ(NWS)、(4)ピア・トゥ・ピア型ネットワーク(PtoP)、(5)ソフトウェア・スイッチ(SoSW)、(6)デジタル・ディスプレイ・コントローラ(DDC)と、6つの分野を上げておられますが、これらの分野のベンチャーの発見は終わったんですか。

 原 まだ世界に公表していない分野はたくさんありますが、第一段階のPUC技術の発見は07年の前半で一段落したなと思っています。

 奥田 これからは育成ですか。それには時間がかかるんでしょうね。経営にもタッチするのですか。

 原 時には会長兼CEOとして経営の指揮を振るうくらいですから、経営にはもちろん大きく参加します。育成については、ケース・バイ・ケースですが、これまで何回も失敗を繰り返し、そのなかからじっくりと成功に導いてきた経験を活かして世の中にだしていく自信はあります。

 奥田 最近の成功例としてはどんなものが…。

 原 直近ではオープラス(OPLUS)があります。99年の12月25日に、ハーバード大学のジョセフ・セグマンという応用数学者に面接しました。彼は独特の画像アルゴリズム理論を持っており、この理論を使えば100インチを超える液晶、プラズマ、ELテレビも、非常にきれいな画像や人間の目に自然に見える映像が実現できると確信しました。いわば、テレビのCPUともいえるものです。

 彼が言うには、人間の目は物理特性が正しいからといって美しいとは感じない、アナログ的な補正をかけて初めて美しいと感じるようになるらしい。確かに、SONYのOというロゴはほんの少しの縮尺がかけられているから、人間の目にはバランスが取れているように映ります。

 これは面白い発想だと思いましたから、資本を出し、イスラエルにOplusテクノロジーという会社を設立しました。

 奥田 なぜイスラエルなんですか?

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