世界を変える、壮大な夢に挑戦――第18回
原丈人
XVD Corporation チェアマン
会社は株主のものという間違った発想で、時価総額至上主義が横行
奥田 原さんは、次の時代の企業統治のあり方についても積極的に発言なさっており、アングロサクソン主導の時代は終わるともおっしゃってます。ベンチャーキャピタリストとしては異例の発言のようにも思えるのですが。原 ベンチャーキャピタリストとして多くの企業を育てきましたけれど、今のアメリカの経済界は間違った方向に走っていると痛切に感じているんです。本来、金融は脇役に徹すべきなのに、主役になってしまったのがそもそもの間違い。
母校に苦言を言いますが、スタンフォード大学に代表されるビジネススクールの罪が大きいですね。洗脳された経営者たちは、「会社は株主のもの」と主張し、なるべく短い期間に株価を吊り上げるための即効手段だけを追求してきました。その象徴がROE(株主資本利益率)の重視です。ROEというのは、株主が投資したお金をどれだけ効率よく活用しているかを見る指標であって、決して目標にはなりえません。ところがROEは株価と相関関係を持っているので、ROEを上げることが目標と勘違いする経営者をたくさん作ってしまいました。手段と目的が逆転したともいえます。
ROE=当期純利益/株主資本(株主資本-負債)×100で計算します。今のアメリカでは、ROEを引き上げることが優れた経営者だと評価されるようになってしまったため、分子つまり利益を大きくするよりも、分母を小さくする経営者が続出しています。分母を小さくするには、従業員を解雇したり、工場を売却して生産を外注化するなどの手段を講じるのが手っ取り早い。こうした経営者の多くは、自らの使命を果たしていると信じ込んでいるかもしれませんが、そのうちに会社も社会も疲弊していきます。
こうした環境では、長期的な研究開発投資などは当然ながらできません。IT業界もこの「短期間に株価を上げなければいけない症候群」といった病にかかっていますので、私自身は、もはや画期的な技術は今後はアメリカからは生まれないなとみています。
ベンチャーキャピタルも同じ傾向にあります。70年代から80年代に、シリコンバレーで多くの起業家が輩出されたのは、リスクを冒して投資してくれるキャピタリストがいたからです。そうしたキャピタリストの多くは、製造業の出身でした。ところが、シリコンバレーの成功を見て、膨大なファンドが流れ込んできました。90年代前半は、ベンチャー企業に入っていた資金は年間4000億円程度でしたが、2000年には10兆円を超えました。結果、何が起こったかといえば、こうした資金を運用する主体が資産運用のファンドマネージャーとか経営コンサルタントになっていったということです。彼らが関心を持つのはリターンだけ。技術の将来性を見抜き、リスクを冒すのではなく、安全で儲かるところだけに投資するんです。
それ自体は悪いことではありませんが、初期段階のリスクの高いコア技術ベンチャーへお金を出してくれるところが非常に速いペースで減ってきているので、この点でもアメリカには期待できないなと考えています。もちろん今でも、技術を使ったサービス産業のような分野は、比較的時間がかからないので、初期段階の会社も資金調達は可能です。