96年ピークに、打つ手打つ手が裏目に
奥田 高橋さんのことだから、すぐに手は打ったんでしょう。
高橋 ええ。ブラウザがカギだと分かったので、アメリカのスパイグラス社に飛んでいき、日本の代理店権を取ったんです。スパイグラスは、マイクロソフトのブラウザの原型を開発した会社です。だけど、タダにはとうてい、かないませんでした。
奥田 タダというのは?
高橋 マイクロソフトは、OSの一部としてインターネットエクスプローラ(IE)を無料で使えるようにしたわけです。「まいと~く」は、電話回線とモデムというアナログの世界で発展してきた製品で、文字のみを処理対象にしていました。アナログでもデジタルでも動き、写真や図形なども扱えるIEがタダで使えるとなると、勝負になりません。
それに、エミュレータソフトも、メインフレームからオープンシステムへの移行のなかで、存在価値が減少してしまって…。
奥田 二重苦、三重苦に見舞われたわけですか。でも、よく生き残りましたね。
高橋 そりゃ必死でしたよ。96年をピークに売り上げは減り続ける。手は打つんですが、どれもこれも裏目に出てしまう、そんな悪夢の経験もしました。一回だけリストラを実施したんですが、これは本当につらかったですね。
不幸中の幸いだったのは、IPO(株式公開)をしなかったことです。96年頃には、IPOの話も盛んにあり、私も乗り気になりかけた時もあったんですが、もし、IPOしていれば、持ちこたえられなかったでしょうね。
通信、セキュリティ、ユーティリティの三本柱を確立
奥田 底は脱したんですか。高橋 それは自信を持って「はい」と言えます。2002年に、三本柱の事業戦略構想を固め、それに沿った展開が軌道に乗りつつあるからです。
奥田 2002年といえば創業20周年ですか。週刊BCNの「KeyPerson」に登場してもらってますね。ところで三本柱とは?
高橋 通信をベースに、これから成長が見込めるセキュリティ、そしてASPによるユーティリティです。
通信は、NGN(次世代ネットワーク)の時代を迎えつつあり、インフラに近いところは通信メーカーがやるでしょうから、私どもの役割も変化していくはず。でも、これまでに培ったSpeciality、つまり得意性を生かし、今後とも私どもでなければできないソフトを提供し続けていきます。
成長性(Growth)が高いのは、セキュリティでしょう。ただ、この分野誰もがやってくるでしょうから、いかに独自性を出せるかが、ポイントになると考えています。一つの切り口は、データの安全性を守っていくことです。事業の継続性を考えれば、データの安全性を守り続けることは極めて重要になります。ユーティリティと絡め、新しい機能を持った商品を提供していきます。
ユーティリティは、Expansion、つまり拡張性がキーワードだと考えていますが、ASPサービスなどすでに軌道に乗ったものもあり、今後楽しみな分野です。2002年4月にネットワークのセキュリティをオンラインで提供するASPサービスとしてSHILDIAN NETservice(シルディアン ネットサービス)を始めました。最初の2年は泣かず飛ばずで、やめようかと思った時、1社が導入を決めてくれて、その後数社が立て続けに採用、今では安定収入が見込めるようになってきました。
1か月数百円で、ネットワーク上のあらゆるセキュリティを守りますというASPサービスで、今では利用者が約40万人に達しました。当社は表に出ず、サービスプロバイダーなどBtoCオンライン事業者に仕組みを提供しています。着メロサービスと同じく、寝ててもチャリンチャリンとお金が入ってきますので、ユーザー数が増えれば面白いビジネスになるのは間違いない。
奥田 セキュリティをASPで提供するというのは、どんな発想から生まれたんですか。
高橋 セキュリティソフトそのものは、強力な先行メーカーが存在しますから、ハコ売りでは勝負にならないだろうと考えていました。そんな時、韓国ではASPサービスもそれなりに評価されていることを知り、あっ、これは新しい売り方になるなと思った。「『売り切りビジネス』から『継続ビジネス』へ」と表現しています。
奥田 とすると、SaaS(ソフトウェアのサービス化)への関心も高い?
高橋 SaaSについては現在、いろいろと模索してます。もうちょっと待ってください。