ITジュニア賞、生みの親の一人、和歌山県立田辺工業高等学校の平松芳民校長と対談――第6回
平松芳民
和歌山県立田辺工業高等学校 校長
生徒の実習服が似合ってくる
奥田 ここで改めて、先生の教育観を披露していただきたいのですが…。平松 普通校の場合、有名大学に何人入れたかという点が評価基準としてまかり通っているように思うんですが、工業高校の場合は、近年、大学進学の割合が増加しているものの、卒業したら、すぐに社会人になる生徒が大半です。
田辺工業高校では、教育の基本目標として、「人間尊重の精神を基盤として豊かな人間性を持つ有能な技術者としての資質向上をはかり、平和社会の一員として信頼される人間の育成に努める」ことをまずうたい、具体的には、生命の尊重、豊かな人間性の形成、有能な技術者の養成、校風の樹立――を掲げています。さらに重点目標として、「人間尊重の精神に基づき、互いに敬愛しあう態度を養おう。授業を大切にして、喜びと感動を与えよう。緑を育て、花を愛する心を養成しよう。生命を守る教育をすすめ、とくに交通事故をなくそう」という点も掲げています。
要するに、人間らしい人間、調和の取れた人間を養成することが何より大事だと思っているのです。小さい時から、しっかりした職業観を持たせ、ウィングを大きくして、社会に出てから大きく羽ばたけるような、基礎体力を3年間で付けてあげる、これが使命だと思っています。根底に必要なのは、人のために役立つ人間になろうとする自覚を持たせること、人の痛みを理解し、分かる人間を育てることなどです。
奥田 モノづくりに興味を持たせ、一生を捧げるという意識を持たせることが工業高校の役割だと思うのですが、そのために、実際の授業にあっては、どんなことを重視なさっているのですか。
平松 当校には、機械科、電子科、情報システム科の3学科があります。授業には、座学と実習があるわけですが、座学で学ばさせようとしても、できないことがありますので、実習を重視しています。
新入生のなかには、機械科に入った子でも「ヤスリがけ」などしたことがないという子が大半ですし、電子科でも「ハンダごて」に触ったことのない子がほとんどです。そうした子どもたちに、まず教えるのは、道具を大事にしようということです。ペンチなどの工具の扱い方をまず教え、終わったら磨いてキレイにして道具箱に戻すことを教えます。
「モノを大事にする」。モノづくりにあってはこれが出発点だと考えています。また、人の言うことを聞くことも大事だと教えています。その意味では、実践してみせる先生の役割は非常に大きいですね。そして、実際のモノづくりに当たっては、完成品をまず見せ、ここが大事、ここが難しいと教えたうえで、子どもたちにチャレンジさせます。体験させる、これも非常に重要だと考えております。
こうやって実習させていきますと、不思議なことに、実習服が似合ってくるようになるんですよ。入学したてのときは、借りてきた服そのもので、まったく似合っていないんですが、油が染みつき、何度か洗濯しているうちにサマになってくる。高校生ですから、伸び盛りで、3年生になれば寸法などは合わなくなってくるはずなんですが、サマになっているというか、着こなしているというか、似合ってくるんです。